短編集2

6.今宵語られるは、煌びやかなる御伽



世界の裏の裏。
それは表と思えども、それは表に在らず。
それは御伽の国、永遠の国。そしてこの国ワンダーランドと呼ばれる場所。
純粋さを持った反転世界げんじつだけが招かれる。
運命と役割に縛られ縛る、数奇な世界。
誰も知らない、はずの…。




「誰も知らない、はずの?」
寝物語に少年は首をかしげる。
「そう。だって現にボクは知ってるよ」
「…あ、そっか」
秘密基地のような屋根裏部屋で語り合いながら眠る。はずだった、と付け加えておく。片方の少年は語り部の御伽噺ですっかり眼は覚めてしまったのだから。
「じゃあ秘密の国じゃないんだね」
嬉しそうに言う少年に、語り部は苦笑した。
「そうでもないんだ。さっきも言ったように純粋さを持った人しか行けない。子供は行けるかもしれないけど、ボクみたいに…」
「君は純粋だよ」
少年は優しかった。 「ボクにも行けるかな」
少年は賢かった。 「うん絶対にね」
「…じゃあ、君も行けるよ」
少年は笑って言った。語り部も嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ二人で行こうか」
「うん、じゃあ約束だね」
笑って約束した、そんな他愛のないことも当然の日々だった。



それは何もかも始まる前の、全ての始まりの前。
まだ二人が少年と呼ばれた頃の、まだ親の庇護を必要とした頃の。
そして語り部の少年が異能に恵まれて、誰からも迫害される前の。
彼が笑えなくなる前の、彼が死んでしまう前の。
今宵語られた、世界の裏の裏の話を忘れてしまう前の。
―――始まり、の御伽。



End
7.絆の尊さを悟り



あたしと、貴方と弟。
それで完成された世界から、あたしたちは逃げだした。
あたしたちが住んでいるのは、こんなにも普通の世界で。
これで本当に良かったかどうか…あたしは今でも思い悩む夜がある。
もう一度聞きたい、最愛の弟。
貴方は今、幸せ?
あたしは今、幸せ?




いつもの帰り道。学生寮の方はまだ賑わっているような時間。けれどあたしは珍しく取材もなければ報道室に残って製作する新聞もない。
やることがなさ過ぎて、なんだか少し暇にも思えてきた。
そうだ、こんな早い時間に学生寮に居るか分からないけれど、愛しの弟とその恋人と一緒にカフェでケーキでも食べよう。確か今日は月に1度のケーキバイキングの日のはず!
「よしっ、決まりね!」
声とともに駆けだす。学生寮の前にいる生徒…あ、あれはアスターじゃない。
「アスター!」
声をかければ振り向く姿はきらめいて見える。高等部では王子様とか、貴族っぽくてカッコイイとかでもてはやされてる面があるけど、総じて怒ると怖いってところは皆共通の認識みたい。
「エーゼリン、どうしたの?また取材かい?」
「違うわ。唯とベリルを捜してるのよ。知らない?」
ああ、と感嘆の声を上げてから、アスターは何故か笑った。
「何よ?」
「君はいつも弟君と彼のことばかりだね。一途でとても綺麗だと思うよ」
綺麗だと言う割に、あたしを羨んだりしない癖に。貴方は貴方で大切なモノ、もうある癖に。
「…ベリルの上司のアンタも同類よ。爵位持ちの悪魔って総じて一途なの?」
「そうかもね」
変わらないわ。誰だって、大切な人には一途なものなんだから。
「二人ならさっき街の方へ行くのを見かけたよ。早く捕まえないと、どこか店に入ってしまうんじゃないかな?」
「え?分かったわ、行ってみる」
言葉を聞くや否や走り出す。あたしより先にケーキバイキングしてたら怒るわよ!となんの根拠もなく思いながら。



一番賑やかな通りまで出てみれば、特徴的な蒼いベリルの髪が見える。
「ベーリル!」
「…ん?ああ、エーゼリン」
ベリルがこちらを見て、それにつられるように隣にいた唯がこちらを向く。
唯はいつ見ても可愛いわねー。あたしとベリルが服を選んでるからちょっと女の子っぽくなってるけど。それも唯っぽくていいわ。
「どうしたんだ姉さん、今日報道委員は…」
「仕事全部終わらせて来たわっ。ね、ね、ケーキバイキング行きましょ!」
ため息を吐く唯。何よっ、ケーキ好きでしょ?
「…分かった。ベリルもいいよな?」
「勿論。最近、エーゼリンと昼食も一緒にとれなかったしね」
ベリルが柔らかく笑う。前みたいに泣きそうな笑みでもなく、心から安定している感じがする。
それを見るだけであたしは幸せになる。貴方が幸せなら、きっと唯も幸せだと思えるから。
「じゃ、行きましょ!」
駆けだす。唯は慌てて止めようとする。ベリルは微笑みながら、後ろを付いてくる。
行列のあるカフェまであと数十メートル。あたしは誰より幸せだと思える。
「ね、唯!」
走りながら、言う。
「なんだ?…って、ちょっとスピード緩めろ!答えられない!」
くるりと後ろを向く。唯はまるで急ブレーキをかけたみたいにその場に留まる。
「今、幸せ?」
ねぇ、と聞く。
あたしたちは正しかった?唯は、幸せになれるのかしら。
あたしはちゃんと守ってあげられた?
全部、全部今の一言に詰めたわ。だから、答えを。
「いや」
「…え?」
「まだまだだろ。…姉さんはこれくらいで幸せなのか」
まだまだだと、言う。
それは、今からどんどん幸せになるって、こと?ねぇそれで合ってるの?
「まだ高校…姉さんは中学だけどな。まだ大人でもないのに、幸せを語れるか」
唯、あたしの大切な唯。
あたしはまだまだだったのね。
まだ幸せまで、遠い。
でも。
「じゃあ、とりあえずケーキで幸せ補給しましょ!」
「意味が分からん!」
笑う唯。笑うあたし。笑うベリル。
あたしはこんな世界が欲しかったのよ!



End
8.妖精の秘薬



死も生も、どれもこれも。
ただの有象無象と同じで、誰かの傍にいることさえも。
お前は何も感じていないんじゃないかって、ずっと思ってた。
それが種族が違うからの差異なのか、それともお前の心がそうしているのかも分からなくて。
俺とお前が知り合いだったなんて、これっぽっちも考えなかったんだ。
だから、お前が俺の傍にずっと居てくれる理由も、分からなかったんだ。




鍋が沸いている音と、何かを並べられる音。それから足音が沢山。
俺の傍では多分、何人もが動き回っているんだろうということは分かる。
けれど眼は開かないし、体は動かないし、正直もう駄目かとも思うけれど、意識は何故かはっきりしている。ただ、とても疲れた。何も考えたくは、ない。
「ウェイ君、本当に彼のぱくは精霊のものなんだね?…これが人間なら、」
「…私が間違いを言うとでも?」
「…ま、そっか。曲がりなりにもストーカー歴長いんだったね」
ストーカー…?誰が?この声、誰だった?
何も分からない。まるで脳味噌が壊れたみたいだ。それとも壊れたのは心?
ただ話声が聞こえて、耳だけが正常に処理をしているみたいで。周りの情景を感じ取ることだけが、今の俺に出来る唯一のことだった。



フェリーチェ先生が薬つぼを混ぜ合わせる。秘薬を自ら作ってくれている。
私にはそれを見ていることと、巫のそばにいることしかできない。
幾ら気功術が出来ても、幾ら神聖魔法が使えても。
私にだって出来ることは限られる。天使だって万能じゃない。最も、今頼りにしている先生も“ここでは”天使だけれど。
つぼに色々な薬種を入れながら、眼鏡越しにこちらに嗤った。
「全く、作り方は知っていてもこんな薬を作らされる目に合うとは思わなかったよ。あとで報酬弾んでくれるかい、天使様」
「…私で払えるものならいくらでも。とにかく、先生、」
「分かってるよ。早くやってるからさ、もうちょっと待ってて」
無駄口を叩きながらも先生の手は早い。流石、スカロフでも有数の薬術の腕前の持ち主。天空に居たならば、もてはやされていただろうに。最も、迫害されたかもしれないが。その辺りは紙一重だろう。



巫が、倒れたのは数時間前のことだった。
実技授業で森に居たところ、珍しく具現化した精霊に出会った。そしてその数瞬後―――精霊の最大攻撃を不意打ちで喰らった巫が、音もなく倒れ伏した。
不意を突かれたとはいえ、とっさに結界を張ったのだろう、巫の体には傷一つなく。ただ、彼は眼を覚まさなかった。
私は無事を確認した瞬間、何故か怯えた精霊に神聖魔法を喰らわせ、巫を真っ先に保健医のいる保健室に運んだ。だが保健医エトラスの言い分はこうだった。
『ボクに手助けできる範囲を超えているねぇ、ボクは体専門の医者だよぅ、こんなぱくが壊された入れモノカラダには何もできないよぅ~』
と体に異常がないことを知るや否や、フェリーチェを呼び出してくれた。
『彼ならあの秘薬、作れるでしょ。…まぁ、ボクは極力会いたくないから逃げるけど、連絡だけは付けてあげるよ~。でも逃げるから、ぜぇったい逃げるからねっ!』
とのたまって、電話を掛けて二言三言話すと、窓から去っていった。
そういえばエトラス先生はフェリーチェ先生と犬猿の仲だって噂もあったような、とつらつら考えていると、白衣を手に持ってフェリーチェ先生が入ってきた。
そして巫の容体を伝えると、フェリーチェ先生はひとつの薬品を作り出したのだ。
曰く、本来は精霊の力を取り戻す薬で、力の源である自我を取り戻すための薬。
―――名を妖精の秘薬と言った。



そんな訳で、巫は未だ倒れたまま、フェリーチェ先生が作ってくれるはずの秘薬に頼るしかない。
「にしても、ぱくが壊されるような精霊の攻撃ねぇ…僕にも覚えがないんだけど」
これでも精霊には結構会ったことあるんだけどなぁ、とフェリーチェ先生は片手間に零す。
「…そうだね、私にも分からなかった」
不意に現れ、巫を地に伏せさせた精霊。激昂のままに力をふるって退けてしまったけれど、あれは何をしたかったのだろうか。
「―――ほら出来たよ。施術するから離れて」
「え、先生、飲み薬、とかじゃ…」
「何言ってるの。ぱくを直すような薬を体に入れても意味無いでしょー、これは魔法陣の要領で使うものなんだよ」
雫が少しずつ垂れて、巫の周りに円を描き文字を書き記す。
よく、妖精が踊った後をフェアリー・サークルなどと言うようだけれど、まるでそれと同じように先生は薬をまいていった。
「はい、終わり。あとは君が、ここ読んでね」
それじゃ、と白衣を脱いで彼は出て行ってしまった。…なんてそっけない。
ここ、と示された場所を読む。どうやら呪文のようだった。多分誰にでも扱えるような律だと思う…そう思いたい。
「ええと…『魂の揺らぎ、魄の嘆き。水のささめきのようにたゆたいし、魄』」
ざわり、と巫の周りが揺らめく。純粋な精霊の力。巫の魄がざわめいているんだ。
「『千々に千切れたその心、契ぎりて結わん』」
魔法陣のようにしてまいた薬が、消えていく。その代わりに巫を中心として、魔力が揺らいだ。下手をすると私の魔力さえも引っ張られそうな、魔力のうねり。
―――そうして、力が静まった時には。
薬があったことさえ消えてなくなり、魔力のうねりもなくなり。
何事もなかったかのように、巫は目を覚ました。
「何かあったのか、ウェイ?…そういえば、精霊が、」
ああ、よかった。安堵で足元が崩れる。
「ウェイ?!」
君が驚く声さえも、嬉しい。声が聞けて、君が動いて。それだけでいい。
私は君に何も求めないよ。
君がいることが、私にとっての僥倖だから。



End
9.伝説の英傑を求めて 私の傍らにかつて存在した半身のような存在。
剣とともに私のそばにあって、私と同じ思考を持った…と思っていた存在。
けれど彼は離れてしまった。
私を置いて、どこかへ行ってしまった。




私はいつもこの剣と共に居る。紅の色をした剣。血の色より明るい赤で染まった、私だけの剣。片割れを忘れた剣。
実技授業の時間は一番楽しい。一番剣と共に居られる。自分の力量を一番掴むことができる。確かめることができる。
「あの…綾織、さん?」
ピアノッテが聞く。確か今は二人で模擬戦闘中だったはずなのだけど。
「もう皆帰っちゃったよ。…その、アスターは向こうで待っててくれてる、みたいだけど」
ちらりと弱々しい目線で私に知らせる。確かにピアノッテの目線の先にはアスターが切株に腰かけて、図書室の奥から持ち出したような古めかしい本を読んでいた。
「ごめんなさい、ちょっと意識が飛んでたみたい…で」
「ううん、大丈夫だよ。でも意識が他に向いてても剣戟がすごくて戸惑っちゃったよ」
小さく笑う彼。ふと手を見れば、剣を構えもせずただ持っているだけだった。
「い、意識が飛んでたみたいだから、ご、ごめんね?ちょっと束縛のルーンを…」
ああ、それで私は止まったのか、と理解する。きっと私は止まらなかっただろう。脳裏に片割れの英傑を描いたままで、ずっと。
「どうか、したの…?」
ピアノッテが泣きそうな顔をする。私ももしかしてそんな顔をしているだろうか。
「…思い出していたの」
「何を?」
忘れられない。私と彼で完成されたように見えていた世界。
「私の片割れの英傑のことを。本当にごめんなさいね、授業中に」
「えい、けつ?…英雄のこと?そんな人と、綾織さんは知り合いなの?」
「ええ」
知り合いだった、と過去形になる。今はどこに居るかも知れない。
「私と彼は一緒に育って、そして私が7歳の時に去ってしまったの。英傑の血筋を持った、私と彼は英傑になる素質があって、だから一緒にいたのだけど、」
「…おいて行かれちゃったんだね」
ピアノッテ、悲しそうな顔をしないで。…背から感じるアスターの視線が恐ろしいの。そして、私も悲しくなってしまう。


英傑は私の血にもあり、そして英傑の血筋にのみ使えるこの剣がある。けれどそんなものを持っていても、彼にもう一度会えるとは限らない。
それがとても寂しい。
あんなに一緒にいたのに、まるで彼を全く理解できなかったみたいで。幼い日々がなかったことにされたようで。
とても悲しくて、寂しくてしかたないのだ。


「…私は大丈夫。いつもは忘れられているの」
「綾織さん、」
「学校を出たら、彼を捜しに行くと決めているのよ。目標があるうちは、私は平気なの」
この学園の高等部に入学する時に決めていた。高等部を出たら、世界を廻ろうと。
途方もない、けれど明確な目標があるから大丈夫。そう思っていたい。
「…僕、にも、話くらいは聞けるよ」
いつもうつむいてばかりの彼が、ぐっと上を向いて私を見る。
「ピアノッテさん、」
「だから無理しないでね」
微笑んで、くれる。無理だと云わず、できないと云わず。ただ認めてくれる。
それがとても嬉しいと思う。
「ありがとう、ピアノッテさん。でもそろそろ貴方を返さないとアスターさんに怒られてしまうから、行きましょう?」
「あ、あ、そうだった!」
待たせていたんだった、と思いだしたのかピアノッテはアスターの方へと駆けて行く。
その背を見ながら、私も後を追いかける。二人はじゃれ合うようにして歩いて行く。…まるで過去の私と彼のように。


大丈夫、まだ、頑張れる。ひとりでも、この剣を手にして。
それにひとりじゃない。話を聞いてくれる人がいる。背を見て待っていてくれる人が、いる。喧嘩し合う、相手もいる。だから。
「私はまだ貴方を捜しに行けないわ、ごめんなさい。…佳南」
自己満足かもしれなくても、貴方を捜しに行く日まで。待っていて。



End
10仰ぐ天は光に満ち



僕の世界はいつも四角だった。
区切られた空、区切られた空間。区切られた、僕という存在。
こんな無限に広がるものを知らなかった。
こんな無限に有り続ける未来なんてもの、想像しなかった。
連れ出されて初めて知った、世界の広さ。
もう僕の世界は真っ暗な檻の中じゃない。
仰いだ空にはいつだって、広がる光がある。




オーク樹で作られたドアをノックする。業と古めかしく創られたドアを押すと、簡単に開いた。鍵が掛かっていなかったみたいだ。
「…失礼、します」
「いらっしゃい、ピアノッテ。俺の部屋へようこそ」
一枚板で作られた綺麗な机と、それから図書館にも似た蔵書がずらりと並んだ本棚を背に男は立っていた。彼はこの学園の理事長で創設者。年齢不詳の、僕を救いだしてくれた人。
「久し振りだね。何分、俺は世界中を飛び回っていて学園にはめったに帰ってこないから。どうだい、学園には慣れてくれたかな?」
分厚いサングラスを揺らして近づいてくる彼、もといガルディメット理事長。
僕はこんな妖しげな人に僕を預けたのかと思うと、今は少し不可解にも思えてきた。
ただあの場所で差し伸べられた手は、とても輝いて見えて。そしてそれが唯一の救いだと思えた。実際、それはとても正しかったわけだけれど。
「はい。皆、とても良くしてくれて…特に同じクラスのアスターが」
「アスター?彼が?」
アスターの名前を出すと、理事長はとても驚いているようだった。サングラス越しの目がきっとまん丸になっているんだろうなと想像する。
「アスターが、どうか…しましたか?」
僕にとっては彼は優しくて、とても良い人でクラスのリーダーみたいなところがあって。時々、僕には分からない話をマリアとしているような。
…そんな人なのだけれど。理事長から見たアスターは違うのだろうか。
「いや、気を悪くしないでくれよ?彼が誰かに積極的に構うとは思わなかったんだよ。…成程ね、これが“未来予知”にも見えない必然性を持った偶然の波か」
後半はぼそぼそと呟いていただけのようで、僕には聞こえなかった。でもアスターが僕と仲良くしていることがとても珍しいのだと、理事長は思ったのだろう。
僕が来る前のアスターのことを僕が知るわけがないけれど、でも時折、アスターがとても遠くに感じられたことがある。だから多分、理事長が驚いたのは正しいんじゃないかと思う。
「何故かは僕にもよく分からないんですけど、はじめて教室に入ったときからとても良くしてくれたんです。だから、学園にもなれることができました」
「そうか。うん、それならいいんだ」
サングラスの奥で理事長が笑ってくれたような気がした。
「理事長、本当にありがとうございました。僕を助けてくれて」
「俺の第二の使命だから、当然のことだよ。…未だ魔術師が迫害される地域は少なくない」
かなしいことだけれどね、と理事長は言う。
でもこの学園はとても平和だ。確かに魔術師ばかりが集まるせいかもめごとも、騒ぎも、賑やかさも半端じゃないけれど。(とは、ヴィントが言っていた)
でもとても楽しい。魔術師にとって優しい世界。僕が安心して日々を過ごしていられる、そして。
「空って、とても広いんですね。降り注ぐ光なんて、僕はここにきて初めてしったんです」
とても幸せだと、暗に言う。
そうすると理事長は意を分かってくれたのか、ひとつ頷いて笑ってくれた。
「君のように全ての魔術師たちに幸せな楽園で在れたら、と思うよ」
この場所はまるで楽園だと、言われるように。
そう付け加えて、理事長はもう一度笑った。



End